キャラで覚える古文単語

読んで見て楽しく学ぶ単語帳《キャラ単》

【そしる】これがことを聞かばやと思ふにそしられたらば、聞かじと覚ゆるを

このことの評判を聞きたいと思うのだが、非難されたら聞くまいと思うと

枕草子』二月つごもり頃に

そしる【謗る】

悪口を言う
非難する

解説 <他動詞・ラ行四段活用>
  • 悪口を言う、非難する。
<関連語>
▶そしり【謗り】名詞→悪口を言うこと。非難すること。誹謗。

悪口を言う

枕草子』職の御曹司の西面の

職の御曹司の西面の立蔀のもとにて、頭の弁、物をいと久しういひ立ち給へれば、さしいでて、「それはたれぞ」といへば、「弁さぶらふなり」とのたまふ。「なにかさも語らひ給ふ。大弁みえば、うちすて奉りてんものを」といへば、いみじう笑ひて、「たれかかかる事をさへいひ知らせけん。『それ、さなせそ』とかた語らふなり」とのたまふ。


いみじうみえ聞こえて、をかしきすぢなど立てたることはなう、ただありなるやうなるを、みな人さのみ知りたるに、なほ奥ふかき心ざまを見知りたれば、「おしなべたらず」など、御前にも啓し、またさ知ろしめしたるを、つねに、「『女は己をよろこぶもののために顔づくりす。士は己を知る者のために死ぬ』となんいひたる」といひあはせ給ひつつ、よう知り給へり。「遠江の濱柳」といひかはしてあるに、わかき人々は、ただいひに見ぐるしきことどもなど、つくろはずいふに、「この君こそうたて見えにくけれ。こと人のやうに、歌うたひ興じなどもせず、けすさまじ」などそしる。さらにこれかれに物言ひなどもせず。


「まろは、目はたたざまにつき、眉は額ざまに生ひあがり、鼻は横ざまなりとも、ただ口つき愛敬づき、頤の下・頸清げに、声にくからざらむ人のみなむ思はしかるべき。とは言ひながら、なほ顔いと憎げならむ人は心憂し」とのみのたまへば、まして頤細う、愛敬おくれたる人などは、あいなくかたきにして、御前にさへぞあしざまに啓する。

枕草子』職の御曹司の西面の

現代語訳

職の御曹司の西面の立蔀(中宮定子の仮の御座所)の近くで、頭の弁(藤原行成)が、たいそう長い間、立ち話をなさっていたので、出しゃばって、「そこにいらっしゃるのはどなたですか」と言うと、「弁でございます」とおっしゃる。「何をそんなにおっしゃっているのですか。大弁がお見えになったら、あなたなど放っておかれてしまうでしょうに」と言うと、たいそう笑って、「誰がこんなことまで教えたのかな。『決してそうはするな』とお話していたのですよ」と、おっしゃる。


頭の弁は、格別目立たず風流を気どることもない、ただ普通にしているようであるのを、皆はそのようにだけ思っているが、私は行成の奥深い気だてを理解しているので「並大抵な方ではありません」などと中宮定子にも申し、中宮もそのことを御承知になっているのだが「『女は己を喜ぶ者のために化粧する。士は己を知る者のために死ぬ』というではないか」と、言い合って、(行成は)私をよく理解しておられた。「遠江の濱柳」のように、妨げられても間は絶えない仲なのに、若い女房達は、ただ見苦しいことをありのまま言い立てて、「あの方は、嫌な感じで付き合いにくい。他の人のように歌を歌ったり遊んだりしない。興ざめな感じがする」などと悪口を言う。(行成は)女房たちの誰かれともなく話したりもしない。


「私(行成)は、目は縦についてて、眉は額の方に生えてて、鼻は横向きだったとしても、ただ口元が可愛くて、あごの下から首にかけてがすっきり美しく、声が悪くない人だけを、愛おしいと思う。そうは言ってもやはり顔がたいそう醜い人は嫌だ」とだけおっしゃるので、ましてや顎が細く可愛くもない人などは、不愉快に思い、目の仇にして、中宮にまで(行成を)悪いように申し上げる。

非難する

枕草子』二月つごもり頃に

二月つごもりごろに、風いたう吹きて、空いみじう黒きに、雪少しうち散りたるほど、黒戸に主殿司きて、「かうて候さぶらふ」と言へば、寄りたるに、「これ、公任の宰相殿の」とてあるを、見れば、懐紙に、
 少し春ある心地こそすれ
とあるは、げに今日の気色にいとよう合ひたる。これが本はいかでかつくべからむ、と思ひ煩ひぬ。「たれたれか」と問へば、「それそれ」と言ふ。皆いと恥づかしき中に、宰相の御いらへを、いかでかことなしびに言ひ出でむ、と心ひとつに苦しきを、御前に御ご覧ぜさせむとすれど、上のおはしまして、大殿籠りたり。主殿司は、「とくとく」と言ふ。げに、遅うさへあらむは、いと取りどころなければ、さはれとて、
 空寒み花にまがへて散る雪に
と、わななくわななく書きてとらせて、いかに思ふらむとわびし。これがことを聞かばやと思ふにそしられたらば、聞かじと覚ゆるを、「俊賢の宰相など、『なほ内侍に奏してなさむ』となむ、定め給ひし」とばかりぞ、左兵衛督の中将におはせし、語り給ひし。

枕草子』二月つごもり頃に

現代語訳

二月の末ごろに、風がひどく吹いて、空はとても暗く、雪が少し舞い散っている時、黒戸に主殿司がやってきて、「ここに控えております」と言うので、近寄ったところ、「これは、公任の宰相殿のお手紙です」と言って差し出しているのを、見ると、懐紙に「少し春らしい気持がすることよ」と書いてあるのは、本当に今日の様子にたいそうよく合っている。この歌の上の句はどのようにつけるのがよいだろうか、と思い悩んだ。「(公任の宰相殿と一緒にいるのは)誰々か」と尋ねると、(主殿司は)「誰それです」と言う。皆とても立派な方々の中に、宰相殿へのご返事を、どうしていいかげんに言い出せるだろうか、と悩む自分一人の心にはつらいので、中宮様に御覧に入れようとするが、帝がいらっしゃって、お休みになっている。主殿司は、「早く早く」と言う。本当に、(歌が下手な上に返事が)遅いというのも、たいそう取り柄がないので、「空が寒いので、花と見間違えるように散る雪で」と、震えながら書いて(主殿司に)渡して、(相手は)どのように思っているだろうかと(心配で)つらい。このことの評判を聞きたいと思うのに非難されたら聞くまいと思うと「俊賢の宰相などが、『やはり(清少納言を)内侍にと天皇に申し上げて任命しよう』と、お決めになりました」とだけ、左兵衛督で中将でいらっしゃった方が、お話しになった。

源氏物語』須磨

おほかたの世の人も、誰かはよろしく思ひきこえむ。七つになりたまひしこのかた、帝の御前に夜昼さぶらひたまひて、奏したまふことのならぬはなかりしかば、この御いたはりにかからぬ人なく、御徳をよろこばぬやはありし。やむごとなき上達部、弁官などのなかにも多かり。それより下は数知らぬを、思ひ知らぬにはあらねど、さしあたりて、いちはやき世を思ひ憚りて、参り寄るもなし。世ゆすりて惜しみきこえ、下に朝廷をそしり、恨みたてまつれど、「身を捨ててとぶらひ参らむにも、何のかひかは」と思ふにや、かかる折は人悪ろく、恨めしき人多く、「世の中はあぢきなきものかな」とのみ、よろづにつけて思す。

源氏物語』須磨

現代語訳

世間一般の人々も、誰が並大抵に思い申し上げたりなどしようか。七歳におなりになった時から今まで、帝の御前に昼夜となくご伺候なさって、ご奏上なさることでお聞き届けられぬことはなかったので、このご功労にあずからない者はなく、ご恩恵を喜ばない者がいたであろか。高貴な上達部、弁官などの中にも多かった。それより下では数も分からないが、ご恩を知らないのではないが、当面は、厳しい現実の世を憚って、寄って参る者はいない。世を挙げて惜しみ申し、内心では朝廷を非難し、お恨み申し上げたが、「身を捨ててお見舞いに参上しても、何になろうか」と思うのであろうか、このような時には体裁悪く、恨めしく思う人々が多く、「世の中というものはおもしろくないものだな」とばかり、万事につけてお思いになる。

誰かに話したくなる古典知識

枕草子』二月つごもり頃に

藤原公任清少納言

雪の中を、わざわざ人に行き来させて、和歌の下の句を送り付けて、上の句を作らせるという貴族の遊びの様子が描かれています。ここに登場している公任というのは、漢詩・和歌・管弦の三舟の才と言われたあの藤原公任のことです。藤原公任は、自身で和歌を作って『拾遺集』などの勅撰集に多数の歌が見られるほか、歌学書に『新撰髄脳』『和歌九品』などがあります。いきなり和歌の権威から、気の利いた和歌を完成させなさいと半分だけ作った和歌を送りつけられたのですから、清少納言があわてふためくのも当然で、気の毒なほどです。でも、さすが清少納言、ちゃんと作って評判も良かったと、さりげなく自慢しています。

キャラ紹介

非難しがち

そしる

悪口を言う、非難する。