ほんとうに、突然だと不審に思うのも道理ですが、初草の若葉のような方を見てから、旅寝の袖も涙に濡れて少しも乾かない…
うちつけなり【打ち付けなり】
急である
だしぬけである
突然である
かりそめである
- 突然である。だしぬけである。急である。
- 軽率である。かりそめである。
急である
『古今集』夏162
ほととぎす人まつ山に鳴くなれば我うちつけに恋まさりけり
ホトトギスが人を待つという松山で、鳴くのが聞こえてくるので、急に(あの人が待たれて)恋しさが増したことだ。
だしぬけである
『源氏物語』若紫
「ここにものしたまふは、誰れにか。尋ねきこえまほしき夢を見たまへしかな。今日なむ思ひあはせつる」
「うちつけなる御夢語りにぞはべるなる。尋ねさせたまひても、御心劣りせさせたまひぬべし。故按察使大納言は、世になくて久しくなりはべりぬれば、えしろしめさじかし。その北の方なむ、なにがしが妹にはべる。かの按察使かくれて後、世を背きてはべるが、このごろ、わづらふことはべるにより、かく京にもまかでねば、頼もし所に籠もりてものしはべるなり」と聞こえたまふ。
「ここにおいでの方は、どなたですか。お尋ね申したい夢を拝見しましたよ。今日、思い当たりました」
と(光源氏が)申し上げなさると(僧都は)笑って、
「だしぬけな夢のお話でございますね。お知りになられても、きっとがっかりなさることでございましょう。故按察使大納言は、亡くなってから長くなりますので、ご存知ないでしょう。その北の方が私の妹です。あの按察使が亡くなった後、出家しましたのが、最近、患うことがございましたので、こうして京にも参らずにおりますので、頼りにする所として籠っているのでございます」とお申し上げになる。
→この前の部分は 【まかる】の記事をご覧ください。
突然である
『源氏物語』若紫
「げに、うちつけなり、とおぼめき給はむも理なれど、
はつ草の若葉のうへを見つるより旅寝の袖もつゆぞかわかぬ
と聞こえたまひてむや」とのたまふ。
「さらに、かやうの御消息、うけたまはりわくべき人もものしたまはぬさまは、しろしめしたりげなるを。誰れにかは」と聞こゆ。
「おのづからさるやうありて聞こゆるならむと思ひなしたまへかし」
とのたまへば、入りて聞こゆ。
「あな、今めかし。この君や、世づいたるほどにおはするとぞ、思すらむ。さるにては、かの『若草』を、いかで聞いたまへることぞ」と、さまざまあやしきに、心乱れて、久しうなれば、情けなしとて、
「枕結ふ今宵ばかりの露けさを深山の苔に比べざらなむ
乾がたうはべるものを」と聞こえたまふ。
「ほんとうに、突然だと不審に思うのも道理ですが、
初草の若葉のような方を見てから、旅寝の袖も涙に濡れて少しも乾かない。
と申し上げてくださいますか」と(光源氏が)おっしゃる。
「まったく、このようなお言葉を、頂戴して分かるような人もいらっしゃらない有様は、ご存知でいらっしゃいそうなものですが。どなたにでしょうか」と(女房が)申し上げる。
「自然と、しかるべきわけがあって申し上げているのだろうとお考え下さい」
と(光源氏が)おっしゃるので、(女房は)奥に行って(尼君に)申し上げる。
「まあ、華やいだことを。この姫君(幼い若紫)を、年頃でいらっしゃると、お思いなのだろうか。それにしては、あの(若紫と尼君とのやりとりで)『若草を』と詠んだのを、どうしてご存知でいらっしゃることか」と(尼君は)あれこれと奇妙なので困惑したが、あまり遅くなっては、失礼になると思って、
「今晩だけの旅の宿で涙に濡れていらっしゃるからといって、深山の苔(私たち)と親しくなさらないでください。
乾きそうに(ご期待に応えられそうには)ございませんから」と(返歌を)申し上げなさる。
突然である
『古今集』哀傷 848 源能有
河原の大臣の身まかりての秋、かの家のほとりをまかりけるに、もみぢの色まだ深くもならざりけるを見て、かの家によみて入れたりける
うちつけにさびしくもあるかもみぢ葉もぬしなき宿は色なかりけり
河原の大臣(源融)が亡くなった秋、その家の近くに参ったときに、モミジの葉がまだ深く色づいていないのを見て、その家に詠んで入れた歌
突然になんと寂しいことでしょうか。紅葉も主のいない家では色を失っていることです。
かりそめである
『源氏物語』橋姫
かく見えやしぬらんとは思しも寄らで、うちとけたりつる事どもを聞きやしたまひつらむ、といといみじく恥づかし。あやしく、かうばしく匂ふ風の吹きつるを、思ひがけぬほどなれば、おどろかざりける心おそさよ、と心もまどひて恥ぢおはさうず。
御消息など伝ふる人も、いとうひうひしき人なめるを、をりからにこそよろづのこともと思いて、まだ霧の紛れなれば、ありつる御簾の前に歩み出でて、ついゐたまふ。山里びたる若人どもは、さし答へん言の葉もおぼえで、御褥さし出づるさまもたどたどしげなり。
「この御簾の前にははしたなくはべりけり。うちつけに浅き心ばかりにては、かくも尋ね参るまじき山のかけぢに思う給ふるを、さま異にてこそ。かく露けき旅を重ねては、さりとも、御覧じ知るらむとなん頼もしうはべる」と、いとまめやかにのたまふ。
(姫君たちは)このように見られるかもしれないとはお考えにもならないで、気を許して話していたことを、お聞きになったろうかと、実にたいそう恥ずかしい。不思議と、香ばしく匂う風が吹いていたのを、思いがけない時だったので、「気がつかなかった迂闊さよ」と、気も動転して、恥ずかしがっていらっしゃる。
(薫からの)ご挨拶などを伝える人も、とても物馴れていない人のようなので、「時と場合によって、何事も臨機応変に」と(薫は)お思いになって、まだ霧でよく見えない時なので、先ほどの御簾の前に歩み出て、お座りになる。山里めいた若い女房たちは、お答えする言葉も分からず、お敷物を差し出す様子も、ぎこちない感じである。
「この御簾の前では、きまりが悪いことです。かりそめの浅い気持ちだけでは、こうして訪問して参ることができない険しい山道だと思いますが、変わったお扱いで。このように露に濡れながら何度も参ったら、いくらなんでも、ご存知でいらっしゃるだろうと、期待しております」 と(薫は)とてもまじめにおっしゃる。
『源氏物語』澪標
「かねてより隔てぬ仲とならはねど別れは惜しきものにぞありける
慕ひやしなまし」とのたまへば、うち笑ひて、
「うちつけの別れを惜しむかことにて思はむ方に慕ひやはせぬ」
馴れて聞こゆるを、いたしと思す。
「以前から特に親しい仲であったわけではないが別れは惜しい気がするものだ。
恋い慕ってあとを追いたいものだ」
と(光源氏が)おっしゃると(乳母候補の宣旨の娘は)笑って、
「かりそめの別れを惜しむのは口実で、恋しい方のいらっしゃる所にお行きになりたいのではございませんか」
と物馴れてお答えするのを、たいしたものだと(光源氏は)お思いになる。
→この前の部分は 【まどふ】の記事をご覧ください。
誰かに話したくなる古典知識
『源氏物語』橋姫
薫の訪問
『源氏物語』 橋姫では、薫が露に濡れながら宇治を訪問しました。薫がいると、よい香りが漂いますから、その香りで気付くべきだったのにうかつだったと、姉妹は反省しています。
この訪問の直前には、「扇でなくて、これ(琵琶を弾くバチ)でも、月は招き寄せられそうね」などと話し、姉妹で月を見ながらすっかり気を許していました。 → 【はかなし】参照。
キャラ紹介
突然の友だち

うちつけなり【打ち付けなり】
急である。だしぬけである。突然である。かりそめである。