古文の教室

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【古文】未然形接続の助動詞を物語で覚える暗記法と文法解説

ミゼン刑事のミステリー劇場

事件が起きた。
ル・ラルーという名前の男がスーという男を刺す(さす)重大事件だった。
彼は、苦しむことなく息を引き取った。

この事件を担当することになった捜査一課の課長は、大声で指示を出した。
「明日の朝までに事件の背後関係を図()にまとめるんだ」

まだ駆け出しの若い刑事は、自分の耳を疑った。
そんな面倒な作業よりもまず、現場に足を運ぶことの方が大事だと思ったのだ。
「それは、時()間の無()駄だと思うのですが」

しかし、新米刑事の言葉になど、課長は耳を貸そうともしなかった。
さらに大きな声が部屋中に鳴り響いた。
「つべこべ言わずに、早くやれ」
「はい」

課長にそう言われてしまえば、だれも逆らうことはできない。
新米刑事は、すぐにパソコンに向かった。
事件に関わっている人たちの関係を整理して、図にしようと悪戦苦闘しているうちに、思わず声が出ていた。
ムズ!」

実のところ、こういうデスクワークはひどく苦手なのだ。
隣にいた先輩の刑事がそっと耳元でつぶやいた。
「これくらいまだ、ましだよ。昔は毎日、徹夜だったものさ」

慣れない作業は、遅々として進まない。
キーボードを打つ手を止めて、ふと窓の外を見た。
あたりは、もうすっかり暗くなっていた。
都会のビルの上空に星が輝いている。

そこに、すうっと流れ星が、白い筋を描いて消えていくのを見て、つぶやいた。
「ま、星(まほし)!」

その若い刑事の名は、ミゼン刑事(未然形)という。

ル・ラルー、スー刺す事件

ル・ラルー、スー刺す。しむ。図、時、無、ムズ、まし「ま、星」ミゼン刑事
る らる す さす しむ ず じ む むず まし まほし 未然形

物語の流れで覚えると忘れないよ。

 



動画を見て、しっかり覚えよう!

未然形接続の助動詞

未然形接続の助動詞について解説します。
直前の活用語は、未然形になります。

助動詞の意味

助動詞には、それぞれ意味があるよ。


 自発 受身 可能 尊敬
らる 自発 受身 可能 尊敬 
 使役 尊敬
さす 使役 尊敬
しむ 使役 尊敬
 打消
 打消推量 打消意思 
 推量 意志 適当 勧誘 仮定 婉曲  
むず 推量 意志 適当 勧誘 仮定 婉曲 
まし 反実仮想 ためらい
まほし 希望

活用を表示する場合、基本形を表示した後、未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形の順番で紹介しています。

る・らる ▶自発 受身 可能 尊敬

活用は下二段型です。
 れ・れ・る・るる・るれ・れよ
四段・ナ変・ラ変の活用語の未然形につきます。

らる られ・られ・らる・らるる・らるれ・られよ
四段・ナ変・ラ変以外の活用語の未然形につきます。

「る」「らる」は、同じ仲間なんだね。

自発 「自然と~れる」

心情語が前につくことが多い。

思ふ 思ひ出づ 思ひやる 泣く ながむ しのぶ 驚く

心情語は、心の動きを表す言葉だよ。

秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かぬる

秋が来たとは目にははっきりとはわからないが、風の音で秋が来たと気付いた。

 名詞
 カ四動詞「く」連用形
 助動詞「ぬ」終止形 完了
 格助詞
 名詞
 格助詞
 格助詞
さやかに 形容動詞「さやかなり」連用形
見え ヤ下二「見ゆ」未然形
 助動詞「ず」已然形 打消
ども 接続助詞
 名詞
 格助詞
 名詞
 格助詞
 係助詞 ☆係り結び
驚か カ四動詞 未然形
 助動詞「」連用形 自発
ぬる 助動詞「ぬ」連体形 完了 ☆係り結び

受身 「~れる」「~られる」

忘らるる身をば思わず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな

右近

忘れられてしまう自分のことは何とも思わないが、神仏かけて愛を誓ったあなたの命が惜しいと思う。

忘ら ラ四動詞「忘る」未然形
るる 助動詞「」連体形 受身
 名詞
 格助詞
 係助詞「は」が連濁した形
思は ハ四動詞「思ふ」未然形
 助動詞「ず」終止形 打消 
誓ひ ハ四動詞「誓ふ」連用形 ちかい
 助動詞「つ」連用形 完了
 助動詞「き」連体形 過去
 名詞
 格助詞
 名詞
 格助詞
惜しく 形容詞シク「惜し」をし 連用形 おしく
 係助詞
ある ラ変動詞「あり」連体形
かな 終助詞 詠嘆 連体形接続

可能 「~できる」

下に打消しの語を伴うことが多いよ。

「ず」を伴って「~できない

涙のこぼるるに目も見えず、ものも言は

伊勢物語」年ごろ訪れざりける女

涙がこぼれるので目も見えないし、ものも言うことができない。

 名詞
 格助詞
こぼるる ラ下二動詞「こぼる」連体形
 接続助詞
 名詞
 係助詞
見え ヤ下二動詞「見ゆ」未然形
 助動詞「ず」終止形 打消
もの 名詞
 係助詞
言は ハ四動詞「言ふ」未然形 いわ
 助動詞「」未然形 可能
 助動詞「ず」終止形 打消

尊敬 「~なさる」「お~になる」

主語が身分の高い人であることが多いよ。

かの大納言いづれの舟にか乗らべき

大鏡」三舟の才

あの大納言は、どの舟にお乗りになるのだろう。

 代名詞
 格助詞
大納言 名詞 藤原公任のこと だいなごん
いづれ 代名詞 いずれ
 格助詞
 名詞
 格助詞
 係助詞 疑問 ☆係り結び
乗ら ラ四動詞「乗る」未然形
 助動詞「」終止形 尊敬
べき 助動詞「べし」連体形 推量 ☆係り結び

す・さす・しむ ▶使役 尊敬

 せ・せ・す・する・すれ・せよ
四段・ナ変・ラ変の活用語の未然形につきます。

さす させ・させ・さす・さする・さすれ・させよ
四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形につきます。

しむ しめ・しめ・しむ・しむる・しむれ・しめよ
活用語の未然形につきます。

使役 「~させる」

尊敬の語を伴わず単独で用いられるよ。

妻のおうなに預けて養は

竹取物語かぐや姫の生い立ち

妻である老女に任せて養育させた。

 名詞 
 格助詞
おうな 名詞 
 格助詞
預け カ下二動詞「預く」連用形 あずけ
 接続助詞
養は ハ四動詞「養ふ」未然形 やしなわ
 助動詞「」終止形 使役

尊敬 「お~になる」「~なさる」

下に「給ふ」などの尊敬の語を伴うよ。

「せ」+「給ふ」=「お~になる」「~なさる」

いみじう驚か給ふ

枕草子」上に侯ふ御猫は

ひどく驚きなさる。

いみじう 形容詞ク「いみじ」連用形が音便化したもの
驚か カ四動詞「驚く」未然形 おどろか
 助動詞「」連用形 尊敬
給ふ サ四補助動詞「給ふ」終止形 たまう

 

ず ▶打消

打消 「~ない」

活用は、特殊型とラ変型だよ。

 ず・ず・ず・ぬ・ね・△ 特殊型
 ざら・ざり・△・ざる・ざれ・ざれ ラ変型

大江山いく野の道の遠ければまだふみも見天の橋立

小式部内侍

大江山を越えて行く生野の道は遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともないし、手紙も見ていません。

大江山 固有名詞 おおえやま
生野 固有名詞 いくの
 行く野 カ四動詞「行く」連体形+名詞
 格助詞
 名詞
 格助詞
遠けれ 形容詞ク「遠し」とほし 已然形 とおけれ
 接続助詞 順接確定条件 原因理由
まだ 副詞 
ふみ 名詞
 踏み マ四動詞「踏む」連体形
 係助詞
 マ上一動詞「見る」未然形
 助動詞「」終止形 打消
天の橋立 固有名詞 あまのはしだて

じ ▶打消推量 打消意思

活用は無変化型
 △・△・じ・じ・じ・△

打消推量 「~ないだろう」

夜をこめて鳥の空音は謀るとも世に逢坂の関は許さ

中国の函谷関の故事とは違って、夜が明けたふりをして鳥の鳴き声をまねしたところで、私と逢うことはできないだろう。

 名詞 
 格助詞
こめ マ下二「籠む」連用形
 接続助詞
 名詞
 格助詞
空音 名詞 そらね
 係助詞
はかる ラ四動詞「謀る」終止形
とも 接続助詞
よに 副詞 打消の語を伴って「けっして」
逢坂 名詞「あふさか」おうさか
 格助詞
 名詞
 係助詞
許さ サ四動詞「許す」未然形
 助動詞「」終止形 打消推量

 

打消意思「まい」「ないつもりだ」

主語が一人称のことが多いよ。

忘れの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな

儀同三司母

「いつまでも忘れないよ」というあなたの言葉を末永く信じることはできないので、今日限りの命であってほしい。

忘れ ラ下二動詞「忘る」未然形
 助動詞「」の終止形 打消意志
 格助詞
行く末 名詞「ゆくすゑ」ゆくすえ
まで 副助詞
 係助詞
かたけれ 形容詞ク「かたし」已然形
 接続助詞
今日 名詞
 格助詞
限り 名詞
 格助詞
 名詞
 格助詞
もがな 終助詞

む・むず ▶推量 意志 適当 勧誘 仮定 婉曲

 

むの活用は四段型
 △・△・む・む・め・△

むずの活用はサ変型 
むず △・△・むず・むずる・むずれ・△

推量「~だろう」

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝

山鳥の長く垂れ下がった尾のように長い夜をひとりで寝るのだろうか。

あしびき 名詞
 格助詞
 あしびきの 山にかかる枕詞 
山鳥 名詞
 格助詞
 名詞「を」
 格助詞
しだり尾 名詞「しだりを」しだりお
 格助詞
長々し 形容詞ク「長々し」連体形
 名詞 
 格助詞
ひとり 名詞
 係助詞 疑問 ☆係り結び
 係助詞
 ナ下二動詞「寝」未然形 
 助動詞「」連体形 推量 ☆係り結び 

意志「~よう」「~したい」

天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよ乙女の姿しばし留め

天の風よ。雲の中の通り道を塞いでおくれ。五節の舞の舞姫たちをこのまま留めておきたい。

天つ風 名詞 あまつかぜ
 名詞
 格助詞
通ひ路 名詞 かよいじ
吹き閉ぢよ ダ下二動詞「吹き閉づ」命令形 ふきとじよ
乙女 名詞「をとめ」おとめ
 格助詞
姿 名詞
しばし 副詞
とどめ マ下二動詞「とどむ」未然形
 助動詞「」終止形 意志 

適当 勧誘「~の方がよい」「~してくれないか」

命長くとこそ思ひ念ぜ

源氏物語」桐壺

長生きしようと心に強く願うのがよい。

 名詞 
長く 形容詞ク 連用形
 格助詞
こそ 係助詞 ☆係り結び
思ひ念ぜ サ変動詞「思ひ念ず」の未然形 おもいねんぜ
 助動詞「」已然形 適当 ☆係り結び

仮定 婉曲「~としたら」「~ような」

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立た名こそ惜しけれ

周防内侍

春の夜の夢のように短い間に交わした手枕のせいで、甲斐なく立つであろう浮名が惜しまれます。

 名詞
 格助詞
 名詞 
 格助詞
 名詞
ばかり 副助詞
なる 助動詞「なり」連体形 断定
手枕 名詞 たまくら
 格助詞
かひなく 形容詞ク 連用形 腕(かいな)との掛詞 かいなく
立た タ四動詞「立つ」の未然形
 助動詞「」連体形 婉曲 
 名詞
こそ 係助詞 ☆係り結び
惜しけれ 形容詞シク「惜し」をし 已然形 ☆係り結び おしけれ

まし ▶反実仮想 ためらい

活用は、特殊型です。
まし ませ/ましか・△・まし・まし・ましか・△

反実仮想「もし~ならば~だろうに」

事実に反することを仮定して想像することだよ。

上に、せば、ませば、ましかば、未然形+ば を伴う。
例 せば~まし

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

もし世の中に桜がなかったなら、春の心は穏やかだったろうに。

世の中 名詞
 格助詞
たえて 副詞
 名詞
 格助詞
なかり 形容詞ク「なし」連用形
 助動詞「き」未然形
 接続助詞
 名詞
 格助詞
 名詞
 係助詞
のどけから 形容詞ク「のどけし」 未然形
まし 助動詞「まし」終止形 反実仮想

 

ためらい 「~ようかしら」

上に「いかに」「」係助詞「」を伴うよ。

これに何を書かまし

枕草子」この草子

これに何を書こうかしら。

これ 名詞
 格助詞
 名詞
 格助詞
書か カ四動詞「書く」未然形
まし 助動詞「まし」連体形 ためらい

まほし ▶希望

希望 「~たい」「~してほしい」

活用は形容詞型だよ。


まほし まほしく・まほしく・まほし・まほしき・まほしけれ・△
まほし まほしから・まほしかり・△・まほしかる・まほしけれ・△

紫のゆかりを見て、つづきの見まほしくおぼゆれど

更級日記」源氏の五十余巻

源氏物語の若紫の巻を見て、続きを見たいと思われるけれど

 名詞
 格助詞
ゆかり 名詞
 格助詞
 マ上一動詞「見る」連用形
 接続助詞
続き 名詞
 格助詞
 マ上一動詞「見る」未然形
まほしく 助動詞「まほし」連用形 希望
おぼゆれ ヤ下二動詞「おぼゆ」已然形
 接続助詞

ありがとうございました。

この記事は、「小説家になろう」に発表したコメディ小説をもとに、文法事項の説明を加筆して掲載しております。無断転載転用を禁じます。